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東京高等裁判所 昭和45年(行コ)52号 判決

控訴人(被告) 小石川税務署長

被控訴人(原告) 株式会社日強製作所

訴訟代理人 山田二郎 外三名

主文

被控訴人の当審における新請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実

被控訴代理人は、当審において訴の交換的変更をし、新たに「控訴人が昭和四三年一一月三〇日付で被控訴人に対してした、被控訴人の昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度における所得金額を九八七万六、七〇七円とする再更正処分のうち、所得金額が八五五万一、五〇七円を超える部分及び同日付でした過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との請求を追加するとともに、従前の請求にかかる訴(旧訴)を取り下げると述べ、控訴人指定代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、旧訴の取下に同意する、と述べた。

被控訴人の新請求の原因、これに対する控訴人の答弁及び処分の理由に関する主張、右主張に対する被控訴人の反対主張ならびに当事者双方の証拠の提出、使用、認否は、左記のほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(なお、原判決四丁裏一〇行目に「被告主張事実」とあるのは「原告(被控訴人)主張事実」の誤記と認める。)

一、被控訴人の主張の訂正、追加。

1、原判決三枚目表二行目から三行目までを次のとおり改める。

「その後、控訴人は本訴の係属中昭和四三年一一月三〇日付で、被控訴人の本件係争事業年度の所得金額を九八七万六、七〇七円、法人税額を三一九万四、一〇〇円とする再更正処分及び過少申告加算税を二万三、二五〇円とする賦課決定処分をし、その頃被控訴人にその通知をした。右再更正処分は、係争事業年度の直前事業年度の更正処分が昭和四三年一一月三〇日付で取り消された(すなわち申告額まで減額する再更正処分がなされた)ことに伴ない、係争事業年度の当初更正処分(原更正処分)において認容されていた事業税認定損一〇万九、八四〇円につき、これを認容控除する理由がなくなつたとして、増額更正を行なつたものに過ぎないが、この再更正処分が行なわれたことにより、当初更正処分は再更正処分に吸収され独立の存在を失なうこととなつた。そして、右再更正処分においても、控訴人は、役員賞与の損金算入の点については、当初更正処分におけると同様の計算をし、被控訴人がその役員に支給した左記賞与の損金算入を否認した。」

2、原判決三枚目裏一行目「右更正処分」から三行目「右処分の」までを、「右再更正処分のうち所得金額が八五五万一、五〇七円を超える部分は違法であるから、これを超える限度で再更正処分の」と改める。

二、控訴人の主張の追加。

1、被控訴人主張の右一、1記載の事実は認める。

2、訴外倉持仁ら三名が被控訴会社の同族判定株主に該当することについて次のとおり主張を補足する。

(一)  被控訴人は、旧法人税法第二条第一〇号所定のイないしハの三つの基準の適用をめぐつて、イの基準に該当する以上、ロおよびハの基準にあてはめることは無意味であり、イロハの各基準の適用には優先劣後の関係があるものと解している。

(二)  しかし、右解釈は、まず、同族会社の定義に関する規定の変遷からみて、失当なものである。

わが国の税法において、同族会社という表現が用いられるようになつたのは、大正一三年改正法以後であるが(当時の所得税法二一条の二。昭和一五年の改正で、所得税法と法人税法が分化するまで、法人所得も所得税法のなかに一括して規定されていた。)、大正一二年改正法において同族会社という表現は用いられていなかつたものの、すでに、株主一人とその同族関係者の有する株式金額が資本金額の五〇%以上である法人について、特に累進税率等を適用することになつており、大正一三年改正法以後においてこの法人を同族会社と呼ぶようになつている。

かように、昭和二五年におけるシヤウプ勧告による改正前においては、同族会社とは、株主の一人とその同族関係者の有する株式金額が資本金額の五〇%以上である法人であつたのであるが、昭和二五年の改正法では、次のように、同族会社の「イメージ」が一新し、株主の五人とその各々の同族関係者を含めた持分を合計して、そのうちのいずれかに該当する場合を、同族会社としているのである。

(1) 一人で三〇%以上

(2) 二人で四〇%以上

(3) 三人で五〇%以上

(4) 四人で六〇%以上

(5) 五人で七〇%以上

そして、次に、昭和二九年の改正法では、右の三人以下の(1)ないし(3)の基準を一つに統合して本件にいうイの基準とし、(4)および(5)をロおよびハの基準とするように改められたのであり、この三つの基準が昭和四〇年当時の法人税法に継承されているのである。

これらの立法の変遷に徴してみても明らかなように、昭和二九年改正以後の法人税法では、少数の株主による会社の支配に着目して、同族会社の三つの類型を定立し、その各類型のそれぞれの基準を定めているのであつて、右の三つの基準の間には何ら優先劣後の関係はないものというべきである。

(三)  旧法人税法第二条第一〇号が定めている同族会社の三つの基準は、同族会社の三つの類型のそれぞれの基準であつて、これらの基準の間に優先劣後の関係がないことは、立法の変遷を問うまでもなく、何よりも条文に照らして明らかなことである。

それ故、実定規定の解釈としては、いずれかの基準に該当すれば、同族会社にあたることはいうまでもないことであるが、また、いずれの基準にも該当する場合には、イロハのいずれの基準にもあたる同族会社と解すべきである。

仮りに、被控訴人主張のような考え方によれば、持株割合において同順位の株主がある場合、どのように取り扱われることになるのであろうか。たとえば、五人の株主が二〇%ずつ均等に株式を保有している場合、同族会社の判定においては前記イロハの各基準をすべて充足するのであるが、イロハの基準に優先劣後の関係を認めるかぎり、同族株主はイの基準により三人にとどめざるをえないが、他面その五人の株主の間には優劣はないのであるから、このような場合には、その会社支配において優劣の差のない五人の株主を等しく同族判定株主とするのでなければ、その合理的な解釈を導くことはできないのであり、これによつて被控訴人の主張する解釈が正当でないことについてその一端を指摘することができる。

(四)  もつとも、同族会社に関する定義規定について、これを、同族会社の類型に関するものでなく、単に同族会社かどうかを判定するための基準であるとし、この間に先後の順序をつけようとする考え方は、昭和四五年政令第一〇六号による改正後の法人税法施行令第七一条には取り入れられているのであるが、右政令は昭和四五年四月一日以後に開始する事業年度の所得に対する法人税について適用されるものであるから(同政令附則第二条)、本件について被控訴人主張のように解することは、法律解釈の域を越えるものといわざるをえない。

(五)  旧法人税法第二条第一〇号は、同族会社について定めている三つの基準に関して、明文上なんら優先劣後の関係を定めていないから、そのいずれかの基準に該当する以上、同族会社にあたることはいうまでもないことであるが、また、いずれの基準にも該当する場合については、イロハのいずれの基準にも該当する同族会社として取り扱うのが、画一性を要請される税法ないし税務行政の分野において公平な処理ということができる。

なかんずく、右取扱いは、国税庁長官通達(昭和三四年直法一―一五〇通達の「一五」。)に示されていたもので、長い間にわたり全国の税務行政はこの取扱いによつて処理されており、すでに納税が済まされているのである。

(六)  被控訴会社の役員のうち倉持ら三名が、右基準のハにも該当する同族判定株主と解される以上、本件の再更正処分は正当である。

理由

一、被控訴人のした法人税の確定申告とこれに対する控訴人の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、右処分に対する被控訴人の審査請求等のいきさつ及び被控訴人が本件係争事業年度において訴外倉持仁外二名に支給した賞与を損金に算入したのに対し控訴人がこれを否認して更正処分をしたいきさつ、特に右事業年度における被控訴会社の株主構成、各株主の持株数と発行済株式総数に対する比率、倉持外二名の被控訴会社における使用人としての地位及び同人らに支給された賞与の額等に関する当事者間に争いのない事実は、原判決理由説示のとおりであるから、原判決一一丁表二行目から同丁裏三行目まで及び同丁裏六行目から同一二丁表九行目までをここに引用する。そうして、控訴人が、被控訴人の主張一、1記載のとおりの再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたこともまた当事者間に争いがない。

二、そこで、まず被控訴人が当審においてした訴の交換的変更の適否について判断する。

納税義務者が更正処分の取消訴訟を提起し、その係属中に再更正処分(増額再更正処分)が行なわれ、その結果原更正処分が再更正処分に吸収され、独立の存在を失なうに至つた場合において、原告が訴を変更し、あらためて再更正処分の取消を求めるとともに、旧訴(原更正処分の取消を求める訴)を取り下げる(被告の同意をえて)ことは民訴法の訴変更の要件をみたすかぎり許されることむろんである(行訴法第一九条第二項、民訴法第二三二条)。

これを本件について見るに、旧訴も新訴も、前記倉持外二名が被控訴会社の同族判定株主である「使用人兼務役員」に該当し、同訴外人等に支給した賞与は、被控訴会社の本件係争事業年度の所得金額の計算上、損金に算入されるべきかどうかということを唯一の争点とするものであるから、新訴が旧訴と請求の基礎を同じくすることは明らかである。してみると、旧訴の取下につき控訴人の同意のある本件においては、被控訴人のした本件交換的訴の変更は、これを許容すべきである。

もつとも、新訴が審査請求前置の要件をみたしているかどうか及び右が出訴期間の遵守に欠けるところはないかどうかについては、なお問題があるので、次にこれらの点につき考察する。

(一)  まず、審査請求の前置について。

被控訴人が前記再更正処分に対して所定の審査請求の手続を経たことはその主張しないところであり、かえつて弁論の全趣旨によれば被控訴人はこれを経ていないものと認められる。しかし、右一、に認定したとおり、被控訴人が更正処分について所定の審査請求の手続を経たことは当事者間に争いがなく、かつ前記のとおり再更正処分に対する被控訴人の不服は、更正処分に対するそれと実質上全く同一であるから、このような場合にまで改めて右の手続を要求する合理的な理由はないというべきである。従つて、本件のような場合には、行訴法第八条に表現されている、取消訴訟については原則として審査請求前置を要件としない現行行政事件訴訟法の建前にかんがみ、新訴について審査請求の手続を経ることを要しないものというべきである。

(二)  出訴期間の遵守について。

右一、認定のとおり本件再更正処分が昭和四三年一一月三〇日付でなされその頃被控訴人に通知されたことは当事者間に争いがなく、一方本件訴の変更が昭和四七年一月二四日午前一〇時の当審第八回口頭弁論期日においてなされたことは記録上明らかであるから、本件新訴は、形式的には、行訴法第一四条所定の出訴期間経過後に提起されたこととなる。しかし、右一、認定の当事者間に争いのない事実及び本件記録によれば、旧訴が出訴期間の制限内に提起されたものであることは明らかであり、またさきに認定したように新訴と旧訴とが実質上その争点を同じくするものである以上、新訴において主張されている処分の違法性は、右旧訴においてつとに実質上主張されていたものと認められるうえに、右のような場合に出訴期間経過後の新訴の提起を認めても、特に公益を紊したり、税務行政上重大な支障を来したり、または第三者の利害に影響を及ぼすとは認められないから、本件のような場合には、出訴期間遵守の関係においては、新訴は、旧訴提起の時からすでに提起されていたものと同視するのが相当である。従つて、本件訴の変更が形式上、新訴に対する出訴期間の経過後になされたことによつて、直ちに新訴が不適法となるものではないと解すべきである。

三、そこで本案について判断をする。

1、控訴人が被控訴人のした本件係争事業年度の法人税の確定申告に対し本件更正処分及び再更正処分をしたいきさつに関する事実は右一、認定のとおり当事者間に争いがない。

2、ところで控訴人は、被控訴会社の「使用人兼務役員」である倉持仁、浦井陽太郎及び宮城嘉春の三名は、被控訴会社の同族判定株主であるから旧法人税法第三五条第五項、同法施行令第七一条第四号により、同法第三五条第二項所定の「使用人兼務役員」から除外されることとなり、従つて右の三名に支給された賞与を同条第一項により、本件係争事業年度の所得金額の計算上損金に算入することはできないと主張し、被控訴人はこれを争い、この点が本件における唯一の争点をなしている。

3、法人税法は、法人のうち同族会社についていくつかの特別の取扱いをしている。すなわち、(一)留保金に対する特別課税(第六七条)、(二)行為または計算の否認(法第一三二条)及び(三)役員に対する賞与に関する課税の特例(法第三五条第二項、第五項、施行令第七一条)がこれである(これらの点に関する限り旧法も現行法も特に差異はない。)。法人税法がこのように特別の取扱いをするのは、右(一)及び(二)は、同族会社であることによつて、会社の経理が比較的自由に操作できるところから、法人税の負担を不当に軽減することを規制するためであり、また右(三)は、右に述べたところに加えて、同族会社においては使用人を兼務している役員は、たとえ平役員であつても、その者が同族判定株主である限り、自己及びその同族関係者の持株を通して会社経営にある程度の支配権を持ち得る立場にある者として、その賞与は本来の役員(これを株式会社についていえば常務、専務等の肩書を有する取締役)に対するものと同じく、利益処分として計算すべきものである、との考え方によるものと解される。

そうして、旧法人税法第二条第一〇号は、同族会社の要件を、株式会社については、(イ)株主の三人以下及びこれらの同族関係者が所有する株式の総数がその会社の発行済株式総数の一〇〇分の五〇以上に相当する会社、(ロ)株主の四人及びこれらの同族関係者が所有する株式の総数がその会社の発行済株式総数の一〇〇分の六〇以上に相当する会社、(ハ)株主の五人及びこれらの同族関係者が所有する株式の総数がその会社の発行済株式総数の一〇〇分の七〇以上に相当する会社のいずれかに該当するもの、と定めているが、この規定は右(イ)ないし(ハ)の要件の適用の順序ないし右要件相互間の優先劣後の関係については特に規定することなく、他にこの点についての定めもない。従つて、ある株式会社が右(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれか一つの要件に該当して同族会社とされる場合もあるし、また右の要件のすべてに該当する同族会社である場合もあり得る。そうして、前記(一)及び(二)の各規定の適用については、ある会社が右の要件のいずれかに該当することが確定されれば、それ以上更に進んで他の要件にも該当するかどうかをせんさくする必要はないが、右(三)についてはこれと異なる。すなわち、旧法人税法第三五条第五項、同法施行令第七一条第四号によると、同族会社の「使用人兼務役員」が同族判定株主であるときは、その者に支給した賞与は、同法第三五条第二項にかかわらず同条第一項の原則により損金に算入されないことになつているから、この場合にはある会社が同族会社であることのほか、当該「使用人兼務役員」が同族判定株主であることが確定されなければならない。そうして、右法条が同族会社の同族判定株主である「使用人兼務役員」に対する賞与を損金に算入しないとする理由が右述のようなものであり、かつ旧法人税法第二条第一〇号が前記(イ)ないし(ハ)の同族会社の三つの要件について、その適用の順序ないし優先劣後の関係を定めていない以上、右の要件のいずれかに該当する同族会社の同族判定株主である「使用人兼務役員」は、すべて、前記旧法人税法第三五条第五項かつこ書き、同法施行令第七一条第四号によつて同法第三五条第二項の「使用人兼務役員」の範囲から除外される「使用人兼務役員」と認めるべきである。換言すれば、賞与の損金不算入の関係においては、ある株式会社が、まず右(イ)の要件をみたすからといつて、右施行令第七一条第四号の同族判定株主である使用人兼務役員は、その要件に該当する同族判定株主だけをいうものと速断すべきではないのであつて、更に右(ロ)及び(ハ)の要件をもみたすかどうかを判断し、その要件に該当する同族判定株主であるものもまた同法第三五条第二項の「使用人兼務役員」の範囲から除外さるべきものに該当するものと判定すべきである。もしそうではなくて、被控訴人主張のように(原判決もこれと結論を同じくするが)、右の一つの要件をみたすときは、その要件に該当する最少限の同族判定株主で使用人を兼務する役員のみが右の除外例にあたると解すると、全株主の持株の比率が二〇パーセントずつである同族会社においては、何人を同族判定株主とするのかについて判断に窮することも、控訴人の指摘するとおりである。それ故右のような解釈は、到底これを採ることができない。

4、今これを本件について見るに、前記争いのない事実によれば、本件係争事業年度における被控訴会社の役員らの持株数の発行済株式総数に対する割合は、高橋省吾六二パーセント、倉持仁一六パーセント、浦井陽太郎一二パーセント、宮城嘉春八パーセント、佐久間庸夫二パーセントであり、右のうち倉持は工場長、浦井は工事部長、宮城は工事部次長という使用人としての職制上の地位を有し、常時その職務に従事していたものであるから、被控訴会社は前記(イ)ないし(ハ)のどの要件にも該当する同族会社であり、右倉持外二名は前記施行令第七一条第四号にいう同族判定株主である使用人兼務役員というべきである。

5、もつとも、昭和四五年政令一〇六号による改正後の法人税法施行令第七一条第一、二項によると、現在でも株式構成が右のとおりであるとすると、被控訴会社において同族判定株主に該当するのは高橋一名となる。しかし、同年法律第三七号によつて法人税法第二条第一〇号も改められ、同族会社の要件が前記(イ)のみに限定されたことから推すと、右の法令の改正は、同族会社に対する特例を緩和しようとする租税政策の変更によるものと認められる。そうして、同族会社ないし同族判定株主の要件ないし範囲をどう定めるか、これらに対してどのような特段の取扱いをするかは、一国の租税政策の問題であつて、それが憲法に反しない限り、立法の自由に属することがらであるから、右のような法令の改正は、叙上の解釈に何ら影響を及ぼすものではない。

6、ところで被控訴人は、旧法人税法第三五条第一項、第五項及び同法施行令第七一条第四号は、憲法第一四条、第二七条第一項、第三〇条の規定に違反する、と主張する。

旧法人税法第三五条第一項は、法人の役員に対し支給する賞与(その定義は同条第四項が定める)は、法人の利益の分配であつて、使用人に対し支給する給与及びこれと実質を同じくする賞与が法人の利益稼得のための必要経費であるのと性質を異にするとの認識に立つて、その損金算入を認めず、さらに同条第三項は賞与の実質が前者であるときはこれを受ける者が使用人であつても原則のとおりその損金算入を認めず、また同条第二項は、役員で使用人を兼務する者に支給される賞与のうち後者にあたると認められる部分を損金に算入することを認めて右の建前を貫いている。そうして、同条第五項及び同法施行令第七一条第四号は、「使用人兼務役員」のうちから同族会社の同族判定株主を除外し、右の者に支給された賞与については、右第二項にかかわらず原則に戻つて損金算入を認めないが、その理由はすでに前記3、に述べたとおりである。従つて、旧法人税法第三五条第一項ないし第三項の各規定は、それぞれ十分な理由を有するものであり、また同条第五項、同法施行令第七一条四号が、賞与を同族判定株主たる「使用人兼務役員」に支給した場合とそうでない場合とを区別して取り扱うのは理由のない差別でないことが明らかであるから、前記法令の各条項が憲法第一四条に反するといわれはないし、また右各条項は、法人の経理上の原則を定めるものであるから、これが直ちに同族判定株主である「使用人兼務役員」の勤労権を侵害するものとは、到底解することができない。

また、法人の役員に対する賞与の源資となる法人の利益に法人税が課せられ、一方役員賞与を受けた当該役員個人の所得に所得税が課せられるのは納税主体と課税対象が異なる以上、現行租税法の体系の下においてはむしろ当然のことであるから、これを目して二重課税であり、憲法第三〇条の規定に反するというのはあたらない。

してみれば、前記法令の各条項について憲法違反をいう被控訴人の主張は理由がない。

7、そうして、被控訴会社が本件係争事業年度において、前記倉持に五一万五、〇〇〇円を、浦井に四四万円を、宮城に三七万〇、二〇〇円を賞与としてそれぞれ支払い、右年度の法人税確定申告においてこれを損金に算入したこと及び控訴人がこれを否認し、右の合計一三七万五、二〇〇円の損金算入を認めず、これに基づき本件更正処分及び再更正処分をしたことはすでに認定したとおり当事者間に争いがないが、以上に認定判断したところによれば、右各処分は、いずれも法令の正当な解釈適用に基づく適法なものであり、被控訴人主張のような瑕疵はない。

また、控訴人が被控訴人に対し本件更正処分及び再更正処分の際、これを前提としてそれぞれ過少申告加算税の賦課決定処分をしたことは、右一、記載のとおり当事者間に争いがないが、右更正処分及び再更正処分に瑕疵のない以上、右賦課決定処分はもとより適法なものというべきである。

四、従つて、控訴人が昭和四三年一一月三〇日付で被控訴人に対してした本件再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の各取消を求める被控訴人の当審における新請求は理由がなく、これを棄却すべきである。また、本件更正処分等の取消を求める旧訴は、被控訴人が当審においてこれを取り下げ右については控訴人の同意があるから、これについては判断を示す限りではない。

よつて、行訴法第七条、民訴法第九六条、第八九条により、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石健三 岡松行雄 川上泉)

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